EU離脱のアイルランド国境問題とは?影響を分かりやすく解説

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イギリスがEUから離脱する(ブレグジット)が2019年末の総選挙で決定。

2020年いっぱいにかけて離脱が始まります。

ただ、実は「よし、これでひとまず離脱だ!」なんてカンタンなものではなく、未だにイギリスのEU離脱問は問題山積みです。

その中でも特に大きな問題が「アイルランド国境問題」。アイルランドといえばイギリスのすぐ隣に浮かぶ島ですが、なぜイギリスのEU離脱にアイルランドの国境の話が出てくるのか?日本人からすれば理解できませんよね。

トゥスクEU大統領はこの問題を「ゴルディアスの結び目」と表現しています。

ゴルディアスの結び目とは、ギリシア神話で「難問を誰も思いつかない方法で解く」という意味で使われる成句です。いったい、アイルランドの国境問題とはどういうものでしょうか。その現場である北アイルランドのお話から始めたいと思います。

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北アイルランドってどんな国?

北アイルランドは、イギリスの隣国「アイルランド共和国」の領土であるアイルランド島の北部6州を指します。

そして北アイルランドはアイルランド共和国ではなくイギリスの領土で、北アイルランドの住民は「イギリス国民」となります。なんだかややこしいですね。
北アイルランドがアイルランド島にありながらイギリス領になった原因は、1920年代に起きたアイルランド南部諸州のイギリスからの独立にあります。

アイルランド人はカトリック信者が大半を占めるのですが、北アイルランドにはプロテスタント信者が多く住んでおり、この地区の住民が同じプロテスタント国であるイギリスへの帰属を望んだためといわれています。

しかし、実際は北アイルランドはイギリス人が多く住んでおり、彼らがイギリスへの帰属を求めたというのが、北アイルランドの成立の原因でした。

最近で言うと「沖縄に独立の機運が高まってるけど、実際には中国関係者が増えてるだけで、沖縄の日本人だけでいえば独立を求める人は少ない(ひとまず、この問題の事実関係は置いておいて)」みたいな問題ですね。
そのせいで、北アイルランドには今も紛争が起きたりします。

北アイルランドで起きる紛争は、カトリック対プロテスタントという構図ではなくて、アイルランド系の住民とイギリス系の住民の争いというのが適切なんですね。実際、1960年には黒人の公民権運動に刺激されて武力衝突も起きました。

当時、アイルランド系の住民はIRAという武装組織を作り、北アイルランドやイギリス本土で破壊活動を実施。イギリス・バーミンガムでは1974年にIRAによるパブ爆破事件が発生し、200人以上の死傷者が発生しています。

一方で、北アイルランドに住むイギリス系住民もIRAに対抗すべく武装組織を結成し、アイルランド系住民への報復を実施。これに駐留イギリス軍も加わって30年間で3500人の死者をだす戦いが繰り広げられました。

イギリスといえば、世界屈指の先進国。最近こそイスラム教による破壊活動が度々話題になっていますが、実は以前からイギリスは自国領土であるアイルランドによって、「内戦」と言っても良い戦いが発生していたんです。
この内戦に終止符を打ったのは、イギリスのブレア前首相でした。

人前でアイルランド系とイギリス系の指導者が席を並べることすらタブーとされていたのに、ブレア前首相は両者を交渉の席につかせて話し合いをさせました。

裏話によると、この交渉でイギリス系の指導者は何度も席を立ったそうですが、そのたびにブレア前首相が抱きすくめるようにして席につかせたそうです。

こうしてアイルランド系とイギリス系の両指導者の間で「ベルファスト合意」という和平協定が結ばれたのです。1998年に結ばれたこの協定により、30年以上に渡ったイギリスの内戦はようやく終わりを告げたのでした。
それではどうして30年以上の内戦の終わりを告げるベルファスト合意が、1998年に結ばれることになったのでしょうか。このベルファスト合意のきっかけはEUだったといわれています。

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EUがなければアイルランド紛争は終わらなかった

ご存知の通りEUは、移動の自由を掲げています。

国境の移動にパスポートすら不要だったり、EU全体が1つの国であるかのように行き来できるのがその最大の特徴。おかげで、EUは人、モノ、金が国境を超えて動くようになり反映することが出来ました。

では、振り返ってイギリスと北アイルランドの問題を見てみましょう。

もともと、北アイルランドでの争いはアイルランド共和国に帰属するか、それともイギリスに帰属するかの住民紛争が原因。ですがEU発足によって、北アイルランドの国境は自由に行き来できるようになりました。

争いの一番の原因が消えたから、結果的に問題は収まったわけです。さらにEUのオープン・ボーダーは北アイルランドに様々な利益をもたらしました。

EUがもたらした北アイルランドへのメリット

EUへのイギリスとアイルランドの参加は、北アイルランドにおける紛争解決ばかりでなく、経済的な利益ももたらしました。

例えば、北アイルランドの住民の買い物がとても便利になりました。野菜1つを買うにしても、北アイルランドとアイルランド共和国のどちらの市場が安いかで選べるようになったからです。

またイギリスの通貨ポンドと、アイルランドの通貨ユーロの為替相場の差額を計算して、外貨投資も自由にできるようになりました。

民間企業も北アイルランドの国境がなくなったことで、関税がかからなくなり純利益が増加。このような経済効果は、アイルランド共和国の首都ダブリンと北アイルランドの首府ベルファストの名をとって「ダブリン・ベルファスト経済回廊」と言われています。

しかし、この北アイルランドの賑わいも今回のブレグジットでかげりが生じます。

イギリスがEU離脱となれば、「自由な国境」が無くなるからです。

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ブレグジットで北アイルランドはどうなるか

なぜイギリスはEU離脱にこだわるのか?

まず、先ほど述べた様々な経済的利益が失われます。ブレグジットにより北アイルランドに再び厳重な国境が引かれるためです。

このためイギリス国内では、「ブレグジットで北アイルランドは経済的なダメージを受け、その経済的ダメージの規模はイギリス国内で最大のものになるだろう」と噂されています。
次に、ベルファスト合意で実現された和平協定の見直し、そしてイギリスでの内戦状態が再び始まることも予想されます。

アイルランド系住民としては、「イギリス領だろうとアイルランド領だろうと、どっちにしろ自由に行き来できる」というEUのルールがあったからこそ矛を収め、結果的にイギリスは平和になったわけです。

ですが「EU離脱するから、今日からアイルランドとイギリスは前みたいに厳重な国境にするね」と話が変われば、再び火がつき、さらにはイギリス系住民もそれに呼応し、衝突に突入することも十分に考えられます。

経済的にもダメージがあり、内戦の再開の可能性もある。

ここまで聞くと、EU離脱を選択するイギリスの行動が理解できないと思うのですが、イギリスがEU離脱を急ぐ最大の理由は移民流入を防ぐことです。

現在、イギリス人口における移民の割合は50%。

ロンドンに至っては70%に及びます。
もともと大都市には移民が集まりやすいとはいえ、「東京の70%が日本人じゃない」と考えたら、イギリスの移民問題がいかに深刻になっているか分かりますよね。

そして、どの都市でも同じですが移民はカンタンに仕事が見つかるわけでもなく、時には犯罪に手を染めます。スリなどの軽犯罪はもちろん、強盗や窃盗など本格的な犯罪まで。おかげでイギリスの治安は悪化の一途をたどっています。

これは余談ですが、著者は以前イギリス第二の都市バーミンガムに住んでいました。

その中心地にあるデパートで真昼間に集団窃盗に出くわしたことがあります。10数人の中東系の若者が商品をわしづかみにして逃げる姿に驚いたものです。

そしてこれは”以前”の話で、治安が悪化している今となってはさらに問題は深刻でしょう。それにイスラム教徒による破壊活動なども目にするように、イギリスは移民による治安悪化を防ぐためにEU離脱を考えているわけです。

イギリスのEU離脱を阻止するEUの動き

EU側はイギリスのブレグジットを阻止したい側です。

イギリスはやはりEUの中ではひときわ大きな大国であり、仮にイギリスが抜けるような事があれば、他の国の離脱にもつながるかもしれません。

ただでさえギリシャ等借金まみれの国をEUが救済している部分があるのに、大きな存在感を持っているイギリスがEU離脱すれば、あとあとEUの存亡に大きな影響を与える可能性が高いからですね。
そこで、EU側はアイルランドの味方をします。

イギリスに「アイルランドの国境を従来どおり(EUのときと同じように誰でもカンタンに通過できるように)にしてね」と要求。ですが、イギリス側からしてみれば、北アイルランドを認めたらそこが移民の抜け穴になってしまいます。

これでは、啖呵を切ってEU離脱する意味が薄れてしまいます。
これこそが、ニュースでよく聞く「合意なき離脱」というわけです。

イギリスとしては、移民問題の解決としてのブレグジットは経済的ダメージにつながり、北アイルランドの国境を復活させないことは移民問題が解決しないというジレンマに陥っているのです。

これが冒頭に述べた「ゴルディアスの結び目」という例えですね。トゥスク大統領はこのジレンマを「解決する方法は存在しない」という意味で使っており、イギリスを皮肉っていると言えます。

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北アイルランド国境問題の人々の反応

北アイルランドの住民の意見を以下のとおりです。

①スコットランドとアイルランドがEUに加盟して、イングランドが1人ぼっちになればいい。
②EUに残りたいから、アイルランドのパスポートを申請するよ。
③スコットランド独立のように北アイルランドもイギリスから抜けるだろう。

というもので、北アイルランドの人たちはブレグジットに反対の意見が多いですね。

特に、イギリスはスコットランドも独立の機運が高まっており、スコットランドとアイルランドが一緒にイギリス連邦から離脱する可能性もゼロではありません。(今の時点では可能性は低いですが)

ただ、今回のアイルランド国境問題への対応を間違うとイギリスは経済崩壊はもちろん、最悪の場合内戦の危険性を自分で広げてしまうことになります。
EUやアイルランドは国境を今のままにしたい。

イギリス政府はアイルランド国境を強化したい。

ただ、実を言うとイギリス与党も一枚岩ではなく国境強化に反対する議員も多い。
その結果、イギリス国内ですら「離脱か、離脱しないか」がまともに決まらないような状態になってしまっているわけです。まるでどこかの国の「決められない政治」を見ているようですね(笑)

まとめ

アイルランド国境問題をわかりやすく解説してきました。
経済を取るか、治安を取るか。

ただ、国境を厳しくするにしても国境を今のままにするにしてもイギリス与党内から反発が出ることは間違いなし。2020年1月から始まるEU離脱の移行期間、1年間の間に答えが出せなければイギリスは「合意なき離脱」となります。

ブレグジット最大の難関であるアイルランド国境問題、イギリスがベストな解決法を見つけられるかに注目していきたいですね。

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